2012年3月20日火曜日

予告:ウォール街がクラッシュする

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ウォールストリートジャーナル 2012年 3月 14日 21:29 JST
http://jp.wsj.com/Finance-Markets/Stock-Markets/node_408043

【コラム】ウォール街がクラッシュする10の理由

 【サンルイスオビスポ(米カリフォルニア州)】
 そう、ウォール・ストリートはクラッシュする。間違いない。
 彼らはギャンブル中毒なのだ。
 2008年の危機は切り抜けたが、彼らは何ひとつ学ばなかった。
 それどころか改革を潰し、富豪や企業の最高経営責任者(CEO)、ロビイスト、政治家とぐるになった。
 クラッシュは時間の問題だ。

 そうだ、またもやクラッシュだ。
 景気の回復が弱かろうが、納税者にこれ以上債務のしわ寄せが行こうが、関係ない。
 大統領が誰であろうとだ。
 クラッシュする。

 ウォール街がどん底に落ちるとなぜ分かるのか。
 まず、アメリカ人の大半は、誰かしら中毒症状に陥った人を知っている。
 私もかなり前、ベティ・フォード・センターなどの治療施設で、麻薬やアルコール、ギャンブルの中毒患者を助ける専門家として、数百人もの患者を最前列で見たことがある。

 そこで分かったのは、
 第一にこともあろうに、ウォール街の行動は、他の中毒患者と何ら変わらない、ということだ。
 彼らは現実から目をそらし、家族や友人、健康、キャリア、母国アメリカでさえも壊そうとして止めない。
 彼らは、ギャンブルにのめり込み、憑りつかれ、何も見えず、中毒になっている。

 第二に、ガイトナー財務長官とその妻が我々に警告した。
 ティム・ガイトナー氏は、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)への最近の寄稿「Financial Crisis Amnesia(金融危機健忘症)」で、ウォール街とその関係者がいかに中毒で愚かであるかをはっきりと示した。
 ガイトナー氏は妻についてこう書いている。
 「金融関係者やロビイストが金融改革を批判する記事を読むたびに、私の妻は新聞から顔を上げ、困惑を隠さない」

 そう、ウォール街は健忘症だ。
 金融危機の教訓と数百万人のアメリカ人に与えた損害を否定し、それらが見えない重症患者だ。
 同じことはまた起きる。
 それもすぐに。
 なぜなら、財務長官の「診断」によれば、
 「健忘症は、金融危機の原因となる」
からだ。

ウォール街にはギャンブル中毒者の10の特徴がある

 ウォール街はクラッシュする必要がある。
 そして底入れする。
 ウォール街が前に進もうとしないため、アメリカ経済はリセットできないでいる。
 だから今、ここで完全な診断をやろうではないか。
 この自滅的な中毒患者には、10の特徴がある。
 「ボルカールールとの戦い」のような、現在ウォール街で起きていることについて考える。
 また、ウォール街全体の精神状態がなぜそれほど悪化し、2008年よりも深刻なクラッシュに向かっているのかについても考えなければならない。
 
 今日は、ウォール街の10の特徴について検証してみよう。

1. 健忘症2008年のメルトダウン以降、ウォール街は記憶喪失
 まずは、ウォール街は健忘症、とのガイトナー財務長官の診断から始めよう。
 銀行には、危機が行き過ぎたことについて記憶がない。
 経済の予防措置を上回るリスクの積み上がりを許すと、何が起こるのかを忘れてしまっている。
 健忘症は、ウォール街の耳をふさぐ。
 銀行関係者の思考は近視眼的で、長期的なコストをゼロにし、納税者と将来世代にツケを回せると思い込んでいる。

2. 過剰な楽観主義:ウォール街のカジノは次のメガバブルを育成中
 ダウ工業株平均が1万1722ドルの高値を付けた2000年のネットバブル以来、1万3000ドル近辺で推移する現在まで、ウォール街は、インフレ調整後ベースで約20%の年金資金のリターンを失った。
 エコノミストのゲイリー・シリング氏は、次の10年はゼロ成長を予測する。
 ノリエル・ルービニ氏は、暗黒の10年を警告。
 ピムコのビル・グロス氏はリターン低下という長期の「ニューノーマル」を見込む。
 それでもウォール街は夢の世界にいる。
 警告の兆しを無視し、大型の株式新規公開(IPO)を進めている。
 これには注意が必要だ。

3. 未熟ひどいナルシスト、子どものような大人
 そう、ウォール街は未熟な子どもだ。
 アルコール中毒者更生会のメンバーは、それを
 「キングベイビー症候群」(大人になれない人)
と呼ぶ。
 キングベイビーは、欲しい物は今すぐ欲しい。
 昨今の政治家のように譲歩を知らない。
 ラリー・コトリコフ氏とスコット・バーンズ氏は、著書『The Coming Generational Storm』(『破産する未来 少子高齢化と米国経済』:日本経済新聞社)で、多額の借金を次世代に先送りすることについて警鐘を鳴らした。
 結局、その世代は、70兆ドルの債務に反旗を翻すだろう。
 そして、ウォール街の浪費中毒は、「アラブの春」が取るに足らないと思われるほどの「革命」に直面するだろう。

4. 欲深さ有名なセリフ「欲は善」は、ウォール街の賭博師のためにある
 マイケル・ダグラスは、映画『ウォール街』の中で「欲は善」と言い放った――この有名なセリフが今、かつてないほど真実味を帯びている。
 また、バンガードの創業者、ジャック・ボーグル氏は、自身の著作『Battle for the Soul of Capitalism』(『米国はどこで道を誤ったか』:東洋経済新報社)で、抑制のきかない強欲の害と正面から向き合った。
 今、ウォール街は、魂のない、道徳を欠いた、自分達さえよければ良いという文化だ。
 倫理や高潔、信認義務はどこへ消えたのか。
 投資家は二の次、インサイダーが最優先の世の中。
 金融市場が地に落ち、暴落するまで何も変わらない。
 そうなって初めてわれわれは、1930年代のようなウォール街の真の改革に着手できる。

5. 虚言癖ウォール街を信用するな
 アルコール中毒者更生会のメンバーは、アルコール中毒患者の嘘を唇の震えで見分けるという。
 ウォール街で言われていることを信じてはいけない。
 なぜ、そういった嘘の文化なのか。
 簡単だ。
 「investors come first(投資家第一)」とか「you can trust us(我々にお任せください)」とか、幻想を作り出すためだ。
 彼らが唯一、忠実なのはインサイダーである。
 それ以上、それ以下でもない。
 キャロル・ガイトナー氏はその幻想を見破ったのだ。

6. 飽くなき追求これで満足、ということはない
 ウォール街は、すでに引き返せないところまできている。
 歯止めの効かなくなった中毒患者は、地獄を見なければならない。
 『アメリカン・マニア』の著者で精神科医、ピーター・ワイブロー氏は、
 アメリカが「中毒の国」であり、欲望は決して尽きることがないと言う。
 毎年債務が増え、多額のボーナスはあるにも関わらず、貯蓄はゼロ。
 銀行は救済され、米連邦準備理事会(FRB)は金融市場に安価なマネーを供給する。
 改革はいらない。
 グラス・スティーガル法への回帰は役立つかもしれないが、中毒患者がベティ・フォード・センターを忌み嫌うように、ウォール街もそれを嫌っている。

7. 男らしさ:事実がどうであれ、失敗を認めることはできない
 中毒患者には、自分の欠点がみえないものだ。
 ラリー・ボシディ氏とラム・チャランは、『Confronting Reality』(『今、現実をつかまえろ!』:日本経済新聞社)で、ビジネスと株主に対する一貫した最大のダメージは、経営のまずさではなく、現実に向き合わない姿勢によってもたらされる結末だと警告している。
 ウォール街のインサイダーたちと同様、致命的な誤りを認めることができない。
 モラルの欠如も、2008年の暴落を招いた最悪の判断ミスも認めない。
 彼らは、自分達の誤りが見えないのだ。

8. 予測不可能ウォール街の賭博師は先が読めない
 ジェレミー・シーゲル氏は、『Stocks for the Long Run』(『株式投資長期投資で成功するための完全ガイド』:日経BP社)で1801年から2000年の市場を研究、マーケットは変則的であるという結論を得た。
 長期的な上昇・下落のきっかけとなった動きの75%に、明確な理由がなかったのだ。
 ウォール街はクラッシュを予想できないが、作ることはできる。

9. 非合理:ウォール街は投資家の非合理で儲ける
 行動経済学は、ノーベル賞受賞エコノミスト、ダニエル・カーネマン氏の「投資家は非合理的」との理論に基づく投資判断の心理学だ。
 それは2002年の話だが、いまだに投資家はプロ、素人に関わらず非合理的だ。
 それでも我々は、自らが合理的判断を下していると思っている。
 行動ファイナンス学の大家、リチャード・ターラー氏がかつて、
 「理性と情報を欠いたり、変わった志向を持ち合わせていたり、何らかの理由で高すぎる資産を持ちたがったりする投資家がウォール街には必要」
と指摘したように、世間知らずの一般投資家の非合理性がウォール街を金持ちにするのである。

10. 近視眼的:長期見通しの欠如が暴落招く
 ウォール街が近視眼的な考え方にとらわれるなら、次のクラッシュは確実だ。
 だが、都合の悪いことに、この性質は、グローバル悲劇をお膳立てし、資本主義思想を自滅に追いやる。
 ジャレッド・ダイアモンド氏は、『Collapse: How Societies Choose to Fail or Succeed』(『文明崩壊滅亡と存続の命運を分けるもの』草思社)のなかで、
 歴史を通じて生き残った文化とは、危機よりもはるかに前に長期計画に取り組んだ文化だった
と指摘する。
 一方、失敗に終わった社会とは、
 リーダーが、3カ月もすれば危機で吹き飛ぶと思われるような問題にのみ集中する社会
だという。
 四半期利益や年間ボーナス、ボルカールール反対、改革反対、尽きることのない欲求に捉われるウォール街の姿がこれに重なるではないか。

 さて、読者によるウォール街の「中毒診断スコア」はどうだっただろうか。
 おそらく10項目すべてがあてはまる「パーフェクト」だったのではないか。
 ウォール街のインサイダーにべティー・フォード・センターでのギャンブル中毒治療が必要なのは、言うまでもないことである。

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記者: Paul B. Farrell






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