2012年3月12日月曜日

日本の大学・大学院 & 中国の大学・大学院

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サーチナニュース 2012/03/12(月) 10:28
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2012&d=0312&f=column_0312_009.shtml

ここが違う日本と中国(17)―大学規模

  中国の大学がどんどん大きくなっているのに対して、日本の大学はとても小さい。これは中国人留学生の誰もが持つ印象である。

  日本の大学はどちらかといえば、「コンパクト」に造られている。地方の大学なら、敷地や建物は比較的ゆったりしているが、都市部、とりわけ市街地に立地している大学はほとんど例外なく狭苦しい造り方である。

  ほかに、大学の数が多く、1大学当たりの学生数が少ない、ということも日本の特徴といえる。

  文部科学省の「学校基本調査速報」によれば、2009年、日本の大学数は773校あり、うち国立大学86校、公立大学92校、私立大学595校になっている。
 短期大学は国立2校、公立26校、私立378校、計406校ある。
 また、2011年、大学の在学者数は289万3434人(うち学部生256万9716人、大学院生27万2451人)で過去最高となっている。
 短期大学の在学者数は15万5人(前年度より5268人減少)である。

  これらのデータに基づいて推計すれば、日本の1大学当たりの在学者数は約3743人、1短期大学当たりの在学者数は370人程度であることがわかる。

  日本では学生数の多い大学といえば、日本大学、早稲田大学、慶應義塾大学、立命館大学、近畿大学、法政大学、中央大学、明治大学、関西大学、東海大学といった名前が挙げられる。しかし、平均数は2万~4万人程度。トップの日本大学でも、最多時期は10万人を超えることがなかった。

  日本の大学は規模(主に学生数)において非常に大きなばらつきがある。
 8万人を超える日本大学のようなマンモス大学もあれば、わずか数百人の大学もある。
 なかには、東京神学大学のような学部生がわずか64名(2011年度)しかないミニ大学もある。

  しかし中国では、「大学」と認められた以上、これほど少人数であることはまったく考えられない。

  中国の大学は4年制以上の本科大学と3年制以下の専科大学とに分かれている。
 それぞれ日本の大学と短期大学に相当する。
 また、大学の設立・経営主体別には、教育部など中央省庁(日本の国立)、地方政府(日本の公立)、民営(日本の私立)という区分がある。
 ここでは、混乱を避けるため、一律に日本と同様、大学と短期大学、国立大学、公立大学、私立大学といった名称を使う。

  『中国統計年鑑2011』によれば、2010年時点で、中国の大学数は1112校あり、うち国立大学108校、公立大学633校、私立大学371校になっている。
 また、短期大学は国立3校、公立940校、私立303校、合計1246校ある。

  続いては大学の在学者数を見てみよう。
 同じく2010年、大学は学部生1265万6132人、大学院生153万8416人、短期大学は966万1797人となっている。
 ほかの社会人学生、通信教育学生などは含まれていない。
 1校当たりの在学者数を計算すると、大学は1万2765人、短期大学は7754人となる。

  以上の基礎データを基に、日本と中国の大きな相違をまとめてみると、以下のことになる。

  第1に、大学・短期大学の設立・経営主体別に見ると、日本では私立が圧倒的に多いのに対して、中国では国公立が圧倒的に多い。

  第2に、総人口に比例して見ると、日本の大学・短期大学数および学生数は中国よりはるかに多い。

  第3に、大学・短期大学の規模では、中国は日本を凌駕している。

  第1の相違点に関していえば、中国は社会主義国のため毛沢東時代において私立の教育機関をまったく認めていなかった。
 私立の教育機関が初めてできたのは1980年代だった。 
私立大学は徐々に増えてきているものの、レベルや社会認知度など、国公立大学に遠く及ばないのが現状である。

  第2の相違点は日中両国間の教育水準を反映しており、国民の高等教育において中国は依然として発展途上国の位置にあるのだ。

  第3の相違点は中国の大学規模を現しているが、それはまさに1990年代以降中国の教育方針、とりわけ大学の拡大路線の結果である。

  中国では大学の募集人数は1998年までに1ケタで伸びていた。
 1999年、中国共産党中央と国務院は大学の募集拡大を決定した。
 それをきっかけに、大学の募集人数は年々急速に増加するようになった。

  1999年には一気に47.32%、00年には60.90%と史上最高記録を出した。
 その後、伸び率はかなり下がってきているとはいえ、01年には21.62%、02年には19.46%、03年には19.25%、04年には17.03%、05年には12.8%という非常に高い伸び率を保っていた。
 06年にはようやく1ケタの伸び率に抑え8.25%になった。
 その後、07年には3.63%、08年には7.39%、09年には5.23%と続いている。

  こうした大学の拡大路線を引っ張っているのが2つのビッグプロジェクトである。
 一つは、いわゆる「211工程」、もう一つはいわゆる「985工程」というものである。

  中国ではいままで、2000以上に及ぶ高等教育機関を、40近くの中央省庁がそれぞれ分担して主管していった。
 しかし1993年以降、政府は「21世紀までに国際社会に通用する100前後の大学を重点大学として選抜する」という改革を打ち出し、重点大学には予算を特別枠で配分する。
 これはいわゆる「211工程」というビッグプロジェクトである。
 「211」の始めの2文字の「21」は「21世紀」を指し示し、最後の「1」は「100」の最初の文字の「1」である。

  それを受けて、全国各地にある数多くの大学が自分の大学こそ、その100の重点大学の中に入れてもらおうと、激しい統併合を繰り返し、2000年5月に「211工程重点大学」が決定した。
 その結果、とてつもないようなマンモス大学が一気に登場した。

  「985工程」の産み親は江沢民・前共産党総書記だった。

  1998年5月4日、江氏は北京大学創立100周年記念大会において、
 「近代化を実現するため、世界一流水準の大学をいくつか創らなければならない」
と宣言した。
 それを受けて、教育部は「21世紀に向けた教育新興行動計画」を実施する中で、一部の大学を重点的に援助して世界一流大学を目指そうとすることを決定した。
 このプロジェクトは「985工程」と呼ばれる。「985」とは、1998年5月のことである。

  それに伴う財源について北京大学創立100周年記念大会に出席した教育部の責任者は、今後3年間で毎年、政府が中央財政収入の1%を拠出することを提案した。
 当時の財政収入から推定すれば、「985工程」への中央財政拠出総額は300億元以上にのぼる。

  世界一流大学の創成を目指す候補大学として最初に認められたのが、北京大学と清華大学だった。
 両大学はそれぞれ教育部から18億元の資金をもらった。
 この予算額は1年目3億元、2年目6億元、3年目9億元のように3年に分けて施行される。

  その後、教育部は復旦大学、中国科学技術大学、上海交通大学、南京大学、浙江大学、西安交通大学、哈爾濱工業大学、中国人民大学、武漢大学、中山大学、吉林大学などを「985工程」大学に指定した。

  この2つのビッグプロジェクトに入って、拡大路線の先頭に立っている大学はいずれも相当規模の名門大学である。

  北京大学は学部生1万4465人、大学院修士課程1万31人、博士課程5088人を擁する。

  特に学生数全国一を誇る吉林大学はなんと13万1302人もの学生が在籍している。
 同大学は「211工程」に入る際に、吉林工業大学、白求恩医科大学(ノーマン・ベチューンの名前に因んだ大学)、長春科技大学、長春郵電学院を吸収合併した。
 その後の2004年には中国人民解放軍軍需大学を合併した。
 つまり、6大学の合体によって作り直されたマンモス大学である。
 ちなみに、この13万人あまりの学生のうち、大学院生だけでも修士課程1万8526人、博士課程6569人、計2万5095人にのぼる。

  近年全国のあちこちで生まれた「大学城」も、中国の大学規模の大きさを象徴するものである。

  都市の大学には学生数の増加に対応する敷地・施設の整備が困難である。
 土地も高騰しており、簡単にキャンパスを拡大できない。
 それはいま、各大学が最も頭を痛めている課題の一つである。
 その需要に応えるため、地方政府がバックアップし、大きな国有企業が郊外に土地を購入して、インフラ(食堂、学生寮、体育館、図書館など共用施設)を整備する。

  こうして大学城は各地に建設計画が進行中であり、2007 年時点ですでに55 カ所が確認されたという。
 また、それぞれの大学城の中には、最低でも5万人、多いのは20万人以上の学生がいる。

  大学城とは何か。
 名前を聞いただけで、おそらく「大学都市」をイメージするだろう。
 実際、「広大なキャンパスに多くの大学が分校を開設している」というものである。
 そこには一般市民の生活空間はなく、キャンパスがあるだけだ。
 当然のことながら、キャンパス内には学生、教員、職員が居住している。
 銀行、郵便局、体育館、日常雑貨の売店、書店もある。
 日本の大学と違うのは、多くの大学分校があることである。

  例えば、北京市房山区良郷沙河大学城に入っている大学は、良郷区域では、中国社会科学院大学院、北京理工大学、北京工商大学、首都師範大学、首都医科大学、対外経済貿易大学、沙河区域では、中央財経大学、北京郵電大学、北京航空航天大学、北京師範大学、外交学院、中国伝媒大学である。
 大学城の総面積は799万7200平方メートル、建築面積は500万平方メートル、収容人数は20万人、うち学生10万人、教職員2万人。

  河北省廊坊市東方大学城では数年前にすでに建築面積180万平方メートルの建物を竣工しており、ビルは200棟以上に達している。 
 そのうち、商業・住宅兼用ビル50棟、校舎32棟、学生寮65棟、大型商業ビル7棟、オフィスビル2棟、ホール、文化宮、スポーツセンターなど6カ所、その他の商業建築35棟。
 収容人数は6万人以上。
 最終的には人口20万人(学生10万人)を収容するオックスフォード式の大学タウンになる。

  なぜこのような超巨大な大学城が必要なのか。
 中国政府は大学進学率をどんどん引き上げていく国家戦略を示しているからだ。

  一方、少子化が急速に進行している日本では、大学全体が委縮の危機に直面している。
 1990年代に入り、地域の活性化や第三セクターの発展を図るべく、多くの地方自治体が大学の誘致に乗り出した。
 また、当時の文部省も大学設置基準を緩和していた。
 結果、大学は雨後の筍のごとく一気に増えた。
 特に保健と福祉系の大学は多く含まれている。

  しかし、その後、18歳人口の持続的減少、経済不況の長引きなど、大学を取り巻く環境が厳しさを増す一方である。
 なかで、大学生(および保護者)の動きとして地方分散、あるいは地元志向よりも、むしろ都会回帰の機運が高まり、大学も大都市圏への一極集中が一段と進む。
 今や、学生募集に苦しみ、定員割れに陥った大学は数多くある。倒産大学も出ている。

  もちろん、中国の拡大路線も手放しで喜ぶべきではない。
 莫大な借金を抱えているマンモス大学の多くはいずれ経営が破綻してしまうかもしれない。
 それを救済するには、地方政府が最終的に帳消しや資金援助を講じざるをえない。
 さらに人口動向が加わり、近い将来、中国も大学倒産の時代を迎えるのではとさえ囁かれている。

(執筆者:王文亮 金城学院大学教授  編集担当:サーチナ・メディア事業部)





サーチナニュース 2012/03/13(火) 10:08
http://news.searchina.ne.jp/disp.cgi?y=2012&d=0313&f=column_0313_010.shtml

ここが違う日本と中国(18)―大学院の盛衰

  前回(17)で述べたように、高等教育において今、中国は日本と違って猛烈なスピードで拡大路線を突き進んでいる。
 その結果、発展途上国でありながらも、年間100万人以上の大卒者が就職できないような状態に陥っている。

  それと関連して、国民教育の中における大学教育の重点化、さらに近年大学生の就職難は大学院の膨張を大きく促している。

  文化大革命後における教育体制の改革が始まった頃の1978年には、全国の大学院募集人数が1万708人、在籍者が1万934人、卒業者が9人だったが、2010年にはそれぞれが53万8177人、153万8416人、38万3600人に膨れ上がった。
 倍数でいうと、2010年は1978年の50.26倍、140.70倍、4262.22万5825倍である。

  2011年2月13日付の「科技日報」によれば、過去30年で、中国における博士、修士、学士の学位取得者はそれぞれ33.5万人、273.2万人、1830万人にのぼった。
 これは2月12日に行われた「中華人民共和国学位条例」の実施30周年記念大会において明らかになった数字である。

  同条例は1980年に採択、1981年に施行された。
 その施行は、新中国の学位制度が誕生、教育が法制化の軌道に乗ったことを意味するとされる。
 あれから30年間、中国では膨大な数の人は学位を授与され、また数多くの学位授与機関が設立された。
 統計によれば、2009年末現在、博士、修士、学士学位授与機関はそれぞれ347カ所、697カ所、700カ所あまりとなった。

  そして2010年の1年間、学位授与は
 博士号15万65人(うち社会人10万2658人)、
 修士号33万2585人、
 学士号256万2851人(うち社会人10万1028人、通信教育2万5956人)
に達している。

  大卒者の就職戦線がますます厳しくなるなかで、大学院進学希望者は増大するばかりである。
 過去数年の大学院出願者数を年度別に見ると、2006年127.1万人、07年128.2万人、08年120万人、09年124.6万人、10年140万人、11年150万人、12年165.6万人。08年にやや減少した以外は、01年から現在まで、大学院出願者数は増加傾向にある。
 今年は過去最高に達した。

  一方、大学院出願者の主流は相変わらず学部卒業生である。
 専門家によると、大卒者の就職難が改善されないままでは、大学院受験ブームは冷めることはない。
 逆に、大学院受験の動向は大卒者の就職情勢を測るバロメーターになっているともいえる。


 隆盛を極めつつある中国の現実とは対照的に、
 日本の大学院はいま「凋落」
という一言で言い尽くせる状況にある。
  まず、大学院の在学生数を見ると、2011年には27万2451人で過去最高を記録した (文部科学省「平成23年度学校基本調査の速報について」)。
 これだけでは何ひとつ問題がないように見えるけれど、実は深刻な危機が訪れている。
 それはほかならぬ広範囲に広がる定員割れである。

  2011年8月12日付の「朝日新聞」朝刊は
 「定員満たせぬ大学院 理高文低、私立の博士課程は4割」
という記事を掲載、現在大学院の深刻な定員割れを紹介した。

  それによると、朝日新聞社と河合塾が「ひらく 日本の大学」共同調査を実施した結果、定員割れは修士、博士課程ともに文系中心に珍しからず、大学院生が定員に対しゼロの大学も地方の私立では少なくないという大学院の実態がわかった。

  回答を寄せた460大学では、定員に対する入学者の比率(定員充足率)をみると、全体の平均で90%と定員に達していなかった。

  修士課程は全体の平均が98%で、国立105%、公立98%、私立87%。博士課程は全体で60%と定員割れがいっそう進んでいる。
 国立が69%と落ち込み、公立60%、私立41%となった。

  定員を設定しているのに院生が1人もいない研究科は、私大の博士課程を中心に、少なくとも67大学110研究科でみられた。 
それを含む充足率10%未満は77大学129研究科。定員10人に満たない地方の私大が少なくない。

  筆者も大学院教育に携わっている人間で事態の深刻さが前々から分かっているつもりだが、これを見た瞬間、言葉を失うほどショックを感じてならない。
 ここまで「凋落」したとは思い寄らないことだ。

  その原因と背景について「朝日新聞」の記事は以下のポイントを挙げている。

  一つは、受験生が私立大学から旧帝国大学系の国立大学へ流れていること。
  もう一つは、大学院の入試は学部のそれより簡単だ。
  さらに、大学院生の就職率が低く、大学院を修了したからといって、その先の人生設計が描きにくい。
  ほかに、社会人や外国人留学生の受け入れも思うように伸びていない。

  しかし、筆者に言わせてみれば、
 最大の原因は日本社会全体が上昇意欲を失った
ことである。
 一昔前まで、「日本は学歴社会」だと喧伝していた。
 ところが、今の日本はもう学歴社会でなくなった。
 名門大学を卒業しても、安定した大企業への就職は必ずしも保証されない。
 そんな大企業に入ったとしても、終身雇用にならず、リストラされる危険性もある。

  また、大学院を修了した人材は社会に受け入れられないことも日本社会停滞の象徴といえる。
 一般に、高学歴の人材をより多く必要とする国や社会は上昇気流に乗っているといえる。
 しかし今の日本において高学歴は急速に付加価値が落ちている。
 それは発展途上国と比べて一目瞭然で、ほかの先進国の中でもあまり見られない状況である。
 就職ができず、その学歴に見合った報酬が得られないようだったら、大学院に入ろうとする人が増えない。

  したがって、
 日本の大学院を救いたいなら、社会人と外国人留学生をもっと多く受け入れる
しかない。

  一方、いうまでもなく、社会人も人生のリセットや付加価値を求めて大学院に入るわけだから、その多様なニーズに十分に応えられるようなプログラムや資格を提供するのが必要不可欠である。
 また、多くの社会人は仕事を持っているため、夜間開講や土日開講、しかも駅周辺のサテライト設置など環境の整備も重要である。
 さらに授業料の減免や奨学金の充実もなくてはならない。
 これらはいずれも大学にとって財政的負担が嵩むことになる。

  それから外国人留学生の受け入れだが、日本でも近年かなり進んでおり、特に国公立大学の大学院では留学生数が日本人学生を上回るような状況になってきている。
 言い換えれば、
 いま留学生がいなかったら、日本の大学院が成り立たない
といっても過言ではない。
 これ以上外国人留学生を受け入れようとすれば、日本全体の外国人留学生誘致戦略はもとより、大学としては魅力的な教育(学位や資格)を提供するに留まらず、授業料の減免や奨学金の充実などにも力を入れなければならない。

  要するに、日本の大学院は日本人若者の間で広がっている「停滞ムード」が続く限り、回復する可能性が非常に低い。
 また、社会人や外国人留学生に対して大学経営の採算性を度外視するような優遇措置はどこまで採れるかも甚だ不透明である。

  反面、中国で見られる大学院の急膨張も決して手放しで喜べるものではない。
 その最大の歪みは、教育の質の低下と不正の横行である。

  院生数の急増により、教員1人が数十人を指導するようなケースは珍しくなくなった。

  2010年8月、華中科学技術大学教育科学研究院の周光礼教授編集『中国博士の「質」調査』(社会科学文献出版社)が出版、各界で大きな議論が巻き起こった。

  この中国初となる博士養成課程の質に関する調査報告のなかでは、複雑かつ驚くべき現実が紹介され、1人の教授が同時に47人もの博士課程の学生を指導し、まるで社長のごとく振る舞い、院生は「安い労働力」と化している、などといった看過できない現状が語られている。

  同調査報告で、院生たちを「安値で賢い労働力」と見なしている教授も存在する、と指摘する。
  院生の6割は、自分たちが指導教授の研究の半分以上を担っていると感じており、なかにはすべての研究を学生にやらせている教授もいるという。

  ある学生は
 「教授によっては、自分で1年に研究費数十万元も受取っておきながら、学生には1、2万元すら渡したがらない人もいる」
とぼやく。
 こうして師弟関係は雇用関係へと形を変えるのだ。
 2006年には、上海のある大学で数人の学生が指導教授の「搾取」に耐え切れず、協力してその教授を免職に追い込むという事件が起こった。
 さらにひどい事例としては、学生に自分の著書の執筆をさせて内容のチェックすらしていなかった指導教授にたまりかねた学生たちが、故意に他人の著作からの盗作を行い、裁判にまで発展した。
 こんなやり方でしか、教授の行為を世間に訴える方法が見つからなかったのだ。

  『中国博士の「質」調査』には、
 「1人の指導教授が20人以上学生を預かるケースも全国的には少なくなく、最も多い例では110人以上の学生を抱えることもある。
 多くの学生が入学から卒業までに、指導教授に直接会う機会さえない」
と書かれている。
 周教授の報告が世に出てから6日後、教授の在籍する華中科学技術大学は307人の大学院生を退学にすると発表した。
 多くは、ほとんど大学に出ず、資格を得るためだけに在籍していた。
 その名簿には、オリンピックで優勝した楊威や高峻の他に、就職後の「かけもち学生」が多く並んでいた。
 その職業は概ね2種類で、肩書きとしての「博士」が必要だった青年教師、または、自分に金箔をつけたい公務員だった(「教授の労働力化する博士課程大学院生」『月刊中国NEWS』2011年1月号、「長江日報」2010年8月25日付)。

  大学院そして博士課程は、中国でも教育者や研究者の卵を育てる神聖な場所のはずだが、いまはここまで深刻に汚染されている有様。
 誠に遺憾極まりない。

(執筆者:王文亮 金城学院大学教授  編集担当:サーチナ・メディア事業部)





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