2012年2月18日土曜日

宇宙の加速膨張、反物質が原因?

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ナショナルジオグラフィック ニュース
Ker Than
for National Geographic News
February 16, 2012

http://www.nationalgeographic.co.jp/news/news_article.php?file_id=20120216001&expand&source=gnews

宇宙の加速膨張、反物質が原因?

 宇宙全体に存在するとされながらも、正体が依然として不明な「暗黒エネルギー」。
 宇宙の加速膨張を説明する有力な仮説と見なされている。
 だが最近になって、物質と反物質との間の強力な反発力に基づく新たな理論が発表された。

 宇宙膨張説は近年では広く支持されているが、1998年になってその膨張が加速的だと示唆する観測結果が発表された。
 これは研究者の間でも予想外であり、物理学における“最も深刻な問題”とされている。
 重力に対する従来の認識に基づけば、宇宙の物質間には引力が働くため膨張は減速しなければならないからだ。こ
 の加速膨張を説明するために提唱されたのが、反発力を生む仮想的なエネルギー
 「暗黒エネルギー」
である。

 新たな研究結果は、この暗黒エネルギーによる効果が実際には、通常の物質と反物質とが反発し合うときに生じる一種の「反重力」に起因することを指摘。
 発表したイタリア、トリノ天文台の宇宙物理学者マッシモ・ビラータ(Massimo Villata)氏は次のように説明する。
 「通常この反発力は、宇宙全体を一様に満たしている暗黒エネルギーが元だとされる。
 しかし暗黒エネルギーの正体や、なぜそのような効果をもたらすのかについてはまったく分かっていない。
 我々は未知の存在の代わりに、比較的よく知られている反物質にる反重力に着目した」。

◆カギは宇宙空間に散在する空洞領域

 ビラータ氏によると、宇宙の加速膨張のカギを握っているのは、宇宙空間に散在する巨大な
 「空洞領域
だという。
 全長が数百万光年にもおよぶこの領域には、なぜか銀河や銀河団が存在しない。

 同氏はそこに大量の反物質が存在し、恒星や惑星を含む銀河が形成される可能性もあると考えている。
 天の川銀河に最も近い空洞領域は「ローカルボイド」で、おとめ座超銀河団の中に位置する。

 反物質は、現在の観測機器で検出できる電磁波を放出していないため、実際にその姿をとらえることはできない。
 「空洞領域に存在する反物質が不可視な理由はいくつか考えられるが、明確な結論は得られていない。
 また実験室の反物質は、周囲に通常の物質が存在するため、空洞領域にある反物質とは異なる挙動を示す可能性がある」。

 反物質は銀河内に存在する物質に対して反発力を及ぼすことで、物質どうしを引き離す働きを持つと考えられる。
 そのため反物質自体は知ることができなくても、宇宙の可視的な領域に及ぼす影響の観測はできるとビラータ氏は述べる。

 今回の研究結果から、宇宙に関するその他の問題についても解決の可能性が出てきたという。
 
 その1つが“失われた反物質”問題である。

 現代物理学の定説では、ビッグバンの際に物質粒子と反物質粒子が同じ量だけ生成される。
 だが、宇宙の可視領域は通常の物質からなる構造ばかりが存在するように見える。

 そこでビラータ氏は、ローカルボイドの中にどの程度の反物質が存在するかの特定を試みた。 
 ローカルボイドには、物質で構成された巨大で平坦な銀河の集団「ローカルシート」が隣接しており、ローカルボイドから遠ざかっていると考えられている。
 同氏は、ローカルシートを遠ざける反発力が生まれるにはどの程度の反物質が必要かを計算した。

 「ローカルボイドでの計算値と同じだけの反物質がその他の空洞領域にも存在すると仮定した場合、宇宙全体の反物質量と物質量が等しくなると明らかになった。
 つまり、宇宙における物質と反物質の“対称性”があることになる」。

◆物質と反物質が反発し合う仮説は正しいか

 今回発表された研究結果について、スイスにある欧州原子核研究機構(CERN)の物理学者ドラガン・ハジュコビッチ(Dragan Hajdukovic)氏は、「アイデア自体は興味深い」とコメントする。
 しかし、宇宙に物質・反物質の対称性があるとする仮説には同意できないという。
 「空洞領域内に大量の反物質が存在するなら、なぜ観測できないのかが大きな問題だ」。
 ハジュコビッチ氏自身も、物質と反物質との反発力に基づく暗黒エネルギーや暗黒物質についての独自の理論を最近発表している。

 宇宙に物質・反物質の対称性があるという仮定の下で反物質の不可視性を説明するためには、別の仮説を用意しなければならないとハジュコビッチ氏は指摘する。
 「だが、ある仮説の正当性を主張するために別の仮説が必要になるケースは、理論を構築する上であまり好ましくはない」。

 一方ビラータ氏は、今回発表した理論に用いた仮説はいずれも、物理学の中ですでに広く認められた理論が予測していると主張。
 「その他の仮説は一切必要ない」
と強気の姿勢を見せている。

 今回の研究結果は、「Astrophysics and Space Science」誌に掲載される予定。

Illustration courtesy WMAP Science Team, NASA





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