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日経新聞 2012/2/18 7:00
http://www.nikkei.com/tech/trend/article/g=96958A90889DE1EAEAEAE7E0E4E2E3E5E2E0E0E2E3E0E2E2E2E2E2E2;p=9694E0E5E2E6E0E2E3E3E0E4E1E3
好調「アンドロイド」に3つの不安 ウイルス急増やOSの世代分裂など
米グーグルの基本ソフト(OS)「アンドロイド」が快走している。
同OSを搭載したスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)やタブレット端末などの販売台数は1日あたり70万台に達し、2011年に世界で売れたスマホのうち5割近くがアンドロイドを採用した。
グーグル首脳からは「10億台の普及も実現可能」と強気な発言も出ているが、いくつかの不安要素も浮上している。
「セキュリティー」
「分裂」
「買収」
という3つのキーワードから課題を探る。
世界のスマホ販売台数に占めるアンドロイド搭載製品のシェアが11年7~9月期に初めて50%を突破した。
米調査会社ガートナーの調べによると、1~3月期に36%だったシェアは右肩上がりに上昇し、10~12月期は51%だった。
通年でも46%がアンドロイドを採用した製品だった計算になる。
スマホの出荷台数は10年10~12月期にパソコンを抜き、11年は通年でも「パソコン越え」を達成。
インターネット接続機器の主役に躍り出たスマホの“頭脳”を押さえた意味は大きく、最近はラリー・ペイジ最高経営責任者(CEO)が四半期ごとに開くアナリスト向け決算会見の冒頭でアンドロイドに触れるのが定番になった。
例えば1月19日に開いた11年10~12月期の決算会見。
ペイジCEOは
「1日あたりの販売台数は70万台、普及台数は2億5000万台」
と説明した。
その2週間ほど前にはエリック・シュミット会長が米家電見本市「コンシューマー・エレクトロニクス・ショー(CES)」の会場で
「10億台も達成可能」
と発言している。
グーグルは韓国のサムスン電子などの端末メーカーにOSを無償で提供している。
インターネット広告を収益源とする同社にとって、スマホはネット検索などの利用を促し広告収入を拡大するための“道具”だ。
実際、11年10月時点でモバイル関連の売上高は年間25億ドル(約1980億円)規模と、1年前の2.5倍に拡大しており、これも経営陣の自信につながっている。
一方で、不安も浮上している。
「モバイル機器向けウイルスの3分の2がアンドロイドを標的にしている」
「アンドロイド向けウイルスは7カ月間で33倍に増加した」――。
昨夏ごろからアンドロイドの急成長と軌を一にして、セキュリティーソフト会社の調査報告書などを引用する形で、同OSを狙ったウイルスが増加しているとの報道が増えていった。
グーグル関係者の間には
「ライバル企業がメディアをたきつけている」
との不満もあるが、そもそもウイルス開発者にとっては、最も利用者が多いOSを標的とする方が“効率”がよい。
さらに「オープン」を標榜するグーグルは、米アップルのようにアプリを事前審査する仕組みを取り入れておらず、ウイルスが紛れ込みやすいという事情もある。
● アンドロイドを搭載した韓国サムスン電子製のスマホ(右)と米アップルのiPhone=ロイター
もう1つの懸念材料は「fragmentation」と呼ばれる状況だ。
「分裂」や「断片化」などと訳されるが、市場に出回っているスマホやタブレット端末などに搭載されているアンドロイドの世代が異なることを指す。
新機能をいち早く取り込むため、グーグルは半年から1年という短い期間に次々と新たなOSを投入してきたほか、端末メーカーにも改変を認めているためだ。
「分裂ではなく差異化(differentiation)だ」。
CESでシュミット会長はこう釈明したが、消費者やアプリの開発者に不都合があるのは事実だ。
最新版の「4.0(開発名・アイスクリームサンドイッチ)」では顔認証によるロック解除などが売り物だが、こうした機能が使える製品は一部にとどまる。
機種ごとに機能が違うとなると消費者にとっては分かりにくさが生じる。
さらにアプリの開発者はそれぞれの世代のOSに対応させる手間が生じる。
米通信機器大手のモトローラ・モビリティーは15日、既存製品のOS更新予定を公表したが、2000年代半ばに大ヒットした機種の流れをくむ「ドロイド・レーザー」などで最新版を取り込める時期が「未定」となっており、関係者を落胆させた。
3つめの課題はこのモトローラ・モビリティーとの関係だ。
アンドロイド陣営のメーカーがアップルなどから特許侵害で相次いで訴えられていることに業を煮やし、グーグルは同社のM&A(合併・買収)史上で過去最大となる125億ドル(約9700億円)をつぎ込んで豊富な特許資産を持つモトローラ・モビリティーの買収を決断した。
13日には欧州連合(EU)の欧州委員会と米司法省が買収を承認したと発表。
まだ中国などでは調査が続いているが、グーグルは「手続きの完了に向けて重要な節目となる」(ドン・ハリソン副社長)と約半年にわたる調査の終結に歓迎の意を示した。
ただこの間、モトローラ・モビリティーでは、おそらく半年前には想定していなかった事態も起きていた。
モトローラ・モビリティーが1月末に発表した11年10~12月期の業績は最終損益が8000万ドルの赤字だった。
人員削減などリストラ関連の一時的な費用が発生したのが赤字の一因だが、より深刻なのは売上高が前年同期比0.3%増の34億3600万ドルにとどまったことだ。
同社はここ数年、従来型の携帯電話事業を縮小し、より付加価値が高いスマホに経営の軸足を移すという戦略を進めてきた。
だが、10~12月期の出荷台数は8%増の530万台にとどまり、従来型の落ち込みを十分にカバーできなかった。
アンドロイド陣営を見回すと
人気機種「ギャラクシーS」を擁するサムスンの一人勝ち状態で、
他社の苦戦が目立ってきている。
グーグルはアンドロイドを普及させて、そこから生まれる広告収入を拡大することを事業の柱に据えており、サムスンなどは重要なパートナーだ。
買収の意向を表明した直後から
「今後もモトローラはOS供給先の1社として扱い、えこひいきはしない」
という主張を繰り返しており、買収を承認した独禁当局も監視の目を光らせている。
ただある幹部が
「たとえ特許が目的だったとしても、事業として採算が合うことが必須条件」
と話すように、モトローラ・モビリティーの業績をどう改善するかは大きな課題として残る。
巨額の資金を投じる買収に対して株主の間には厳しい見方もあり、これまでの主張や監視網との折り合いを付けつつ経営をてこ入れするか、手腕が問われる。
これら「3つの不安」について、もちろんグーグルは手を付けている。
「セキュリティー」に関しては今月初め、開発者がグーグルの販売サイト「アンドロイド・マーケット」に登録したアプリを自動的にスキャンしてウイルスを排除する仕組みを導入したと説明。
「分裂」についても主要端末メーカーなどとOSの迅速な更新を実現するための協議会を立ち上げた。
とはいえ、更新までの期間短縮などは取り組みの途上にあり、モトローラ・モビリティーとの関係が将来どうなるかも不明な部分が大きい。
2月末にスペイン・バルセロナで開かれる世界最大の携帯電話の見本市「モバイル・ワールド・コングレス(MWC)2012」ではシュミット会長が基調講演に立つ。
アンドロイドの存在感の高まりとともに、その発言内容に注目が集まっている。
(シリコンバレー=奥平和行)
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